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【ホンダ S600とS800の違いとは?】マニア必見!エンジン・足回り・外装・内装の徹底比較と進化の真実

ホンダS600とS800。この2台はただの往年スポーツではありません。

ホンダが「F1で培った高回転・高効率エンジン技術を、市販車に落とし込む」という大挑戦を行った結果生まれた、“小さな本気のスポーツカー”です。

S600は1964年に登場し、わずか600cc強の排気量から9,500rpm近くまで回る高回転型エンジンとチェーンドライブ式リアサスペンションで世界を驚かせました。

続くS800(1966年〜)は排気量を拡大し、公道での扱いやすさ・信頼性・整備性を大幅に高めた後継モデルです。

一見そっくりな2台ですが、排気量・トルク特性・最終減速方式(チェーンかシャフトか)・リアサス形式・内装の方向性に至るまで、性格はまったく違います。

この記事では、S600とS800の「何がどう違うのか」を当時の基本諸元と構造をもとに徹底的に掘り下げ、どんな人にどちらが向いているのか、実際の維持やレストアの観点まで踏み込みます。

単なる年式違いではなく、“思想の違い”として読み比べてください。


Contents

ホンダ S600とは?【ベースモデルであり革命児】

S600は“ホンダらしさ”の原点そのもの

ホンダS600(型式AS285型を含むS600シリーズ)は、1964年頃に市販された小型FRスポーツです。

ホンダが四輪市販車で本格的に「性能」を語り始めた重要モデルであり、のちのホンダ・スポーツスピリット(高回転、軽量、応答性重視)の出発点にあたります。

当時の軽・小排気量車は「経済的でおとなしい乗り物」というイメージが強かった時代。

その中でS600は、二輪レーシングの延長線上にある“高回転・高出力・軽量メカの塊”として登場します。

ホンダがF1活動で培っていた発想を、市販の小型スポーツに落とし込んだという意味でも、S600は社史的に特別な存在です。

基本プロフィール・主要諸元

当時のカタログおよび公称スペックを整理すると、S600はおおむね以下のような構成でした。

項目内容
型式AS285型系(S600)
エンジン型式AS型:DOHC 直列4気筒 606cc
最高出力約57PS(8,500rpm付近)
最大トルク約5.2kgm(5,500rpm前後)
レッドゾーン約9,500rpm付近(非常に高回転)
最高速度約145km/h(公称)
駆動方式FR(フロントエンジン・後輪駆動)
最終駆動後輪をチェーンで駆動する“チェーンドライブ”方式
リアサスペンショントレーリングアーム+ローラーチェーンハウジング
車重約715kg(クーペ仕様目安)

数字だけでも異様ですが、特に注目すべきは「FRなのに後輪をチェーンで回す」という構造。

このチェーンドライブ式リアエンドは、当時の普通車ではほぼ見られない極めてバイク的な発想で、ホンダが二輪メーカーとして培っていた技術が色濃く反映されています。

なぜチェーンドライブだったのか

通常のFR車であれば、エンジン〜ミッション〜プロペラシャフト〜デフ〜ドライブシャフト…という流れで後輪を駆動します。

しかしS600では、トランスミッションから後端にトルクを伝え、左右独立のチェーンハウジングを介して後輪に力を送る仕組みを採用しました。

この方式の狙いは大きく2つあります。

  • 軽量化:従来のデファレンシャルギア+シャフト式よりも軽くできる。
  • バネ下重量の低減と独立性の確保:左右ごとに駆動力を伝えるため、当時としては非常に“しなやかな後足”が実現できた。

ホンダはレースで得たバイク的な「軽い駆動系」をそのまま四輪に応用しようとしたと言えます。

これがS600を“工業製品”ではなく“機械生命体”のように感じさせる大きな要素になっています。

ただしこの構造は、現代オーナーからすると扱いは難易度高めです。

チェーンの張り調整・潤滑管理・ハウジング内の状態確認など、メンテナンスの内容が完全に「バイク寄り」。

ズレれば駆動のスムーズさが損なわれ、走行中に“ガチャッ”というショック感が出たり、振動が増えたりします。

このクセの強さは、後にS800でドライブシャフト式(後期)へと切り替わっていく伏線でもあります。

エンジンは“市販車として異常な回転領域”

S600のエンジン「AS型」は、DOHC・4気筒・606ccという超小排気量ながら、8,500rpm付近で最大出力を叩き出し、レッドゾーンは9,000rpm台という狂気の設定でした。

これは当時の大排気量スポーツカーですらあまり見られなかった領域です。

小排気量でありながら、1気筒あたり150cc程度の小さなシリンダーを高回転で回し切ることで、結果として“排気量ではなく回転数で馬力を出す”というホンダ的アプローチを実現しています。

感覚的にいえば、S600は「低回転ではそこまで速くないのに、回すと一気にハリつめたサウンドと伸びで加速していく」タイプです。

街中で2,000〜3,000rpmあたりのトルクで押し出す最近のコンパクトカーとは真逆で、“7,000rpmからが本番”という別世界のドライバビリティ。

オーナーいわく「音が高いというより、機械が回ってる金属感が直接くる」という表現が多く、S600は“エンジンを味わうための車”と呼ばれています。

S600が“公道では扱いづらい”と言われる理由

S600は確かに魅力的ですが、今の基準でいうと日常使用にハードルがいくつかあります。

  • 回さないと速くない=市街地では常にエンジンを引っ張る必要がある
  • チェーンドライブのメンテ=整備の知識と手間が要求される
  • 高回転志向ゆえの耐久性管理=オイル管理やバルブクリアランス調整がシビア

つまり、S600は“道具として乗る車”ではありません。

今日は機械の調子はどうか、エンジンはどこで気持ちよく回るか、自分の右足とギアの合わせ方は正しいか──

そういう「対話」を楽しむための車です。

このストイックさ・ピーキーさこそがファンを魅了してやまず、“ホンダの原点を味わいたいならS600”と言われ続けている理由でもあります。


要点まとめ

  • S600は1964年登場の小型FRスポーツで、606cc DOHC・高回転・チェーンドライブという異常なまでのメカ偏差値を誇る1台。
  • 後輪をチェーンで駆動する構造は超軽量・高応答だが整備難度は高い。
  • パワーは回転で稼ぐ設計のため、本領は7,000rpm以降という超高回転志向。
  • 日常車というより、“機械と向き合う楽しみそのもの”を買うクルマ。


    S600って、もはや「車」というより「高回転エンジン搭載の精密楽器」なんですよね。

    あの時代に市販でこれをやったホンダ、本当に頭おかしい(最大級のほめ言葉です)!!

ホンダ S800とは?【公道に適した進化型スポーツ】

“走れるホンダスポーツ”への進化

1966年に登場したホンダS800は、S600の後継モデルとして排気量拡大・駆動系刷新・足回り再設計を経て誕生しました。

当時のホンダはF1活動で培った高回転技術をさらに洗練させつつ、「日常でも使えるスポーツカー」を目指しており、S800はその転換点です。

一見するとS600とほとんど同じスタイリングですが、中身はほぼ別物。

S600のレーシーさ・ピーキーさを残しながらも、実用域での扱いやすさ、耐久性、整備性をすべて底上げした結果、“乗れるスポーツ”へと進化したのがS800です。


主要諸元と構造上の特徴

項目内容
型式AS800型系
エンジン型式AS800E:DOHC直列4気筒 791cc
最高出力約70PS(8,000rpm)
最大トルク約6.7kgm(6,000rpm)
最高速度約160〜170km/h
駆動方式FR(前期:チェーンドライブ/後期:ドライブシャフト)
サスペンション(前)ダブルウィッシュボーン独立懸架
サスペンション(後)前期:トレーリング+チェーン/後期:リジッドアクスル
車重約720〜750kg
ミッション4速MT(レシオ変更あり)

排気量の拡大により、S600のような“極端な高回転”に頼らずとも十分な加速を得られるようになりました。

一方で、S800のエンジンもなお高回転型であり、レッドゾーンは8,000rpm前後。

「官能的な高回転フィール」は継承されつつも、低中速トルクの増強で扱いやすさを両立した点が進化の本質です。


チェーンドライブからドライブシャフトへ ― 大転換の理由

S800前期型(1966〜67年頃)まではS600と同様にチェーンドライブ式でしたが、後期型(1968〜)からはドライブシャフト式+リジッドアクスルへ変更されます。

この変更には3つの狙いがありました。

  1. 整備性の向上:チェーン調整が不要になり、一般整備工場でもメンテ可能に。
  2. 信頼性・耐久性の強化:高回転走行時のチェーン伸び・振動・潤滑管理リスクを解消。
  3. 公道走行の快適性:リジッド化によって乗り心地が改善し、一般道での安定性が向上。

これにより、S800は「ホンダのスポーツカー=尖りすぎている」というイメージを脱し、ヨーロッパ市場での評価も上昇。

特にドライブシャフト式の後期S800は、当時の英国車(MG Midgetやトライアンフ・スピットファイア)と肩を並べる“実用スポーツ”として認知されました。


エンジン特性:高回転+実用トルクの両立

S600では9,500rpm付近での爆発的な伸びが魅力でしたが、S800ではその特性を少し抑え、6,000rpm前後で明確なトルクピークを持たせています。

このチューニング変更により、3,000〜5,000rpmでも十分な加速感を得られるようになり、街乗り・ツーリングでの扱いやすさが格段に向上しました。

構造上も以下の改良が施されています:

  • 吸気系キャブレターの大型化(強化型Keihinツインキャブ)
  • コンロッドの強化・バランス取り精度向上
  • クランクシャフトの高剛性化
  • エキゾーストマニホールドの排気効率見直し

これにより、S800はS600のような繊細なセッティング依存性が軽減し、「いつでも気持ちよく回る」エンジン特性を獲得しました。


ボディ・装備の成熟化

外観はS600と酷似していますが、細部には時代の進化が見られます。

  • フロントグリル:水平ライン中心のS600に対し、S800は中央部に太めのバーを配し、HONDAエンブレムを追加。
  • メーター:照明が白系に変更され、スピードメーターが200km/hスケールへ。
  • シート・内装:厚みとホールド性を増したスポーツシート、ウッド調パネルを採用し、高級感を演出。
  • ボディタイプ:クーペ/オープンのほか、GTハードトップ仕様も登場。

これらの改良は単なる意匠変更ではなく、欧州市場での競争力を意識した“上質さ”の追求です。

結果として、S800はホンダのスポーツを“日本的職人技から国際的完成品へ”進化させた存在と言えるでしょう。


S800の走り:実用域で楽しめる高精度スポーツ

S800は高回転型エンジンを持ちながら、実際には2,500〜6,000rpmの中域で心地よく走れるのが特徴です。

サウンドはS600のような金属的な高音ではなく、やや低く厚みのある音質。

高回転域ではホンダらしい“カーン!”という金属の共鳴が残りつつも、全体の音色は落ち着いており、「乗るたびに刺激」というより「走るたびに快感」という方向へ進化しています。

チェーンドライブ時代の軽快感と、ドライブシャフト化による安定性。

その両方を体験できるのがS800というモデルの魅力であり、まさに“進化の狭間にあるスポーツ”です。


要点まとめ

  • S800はS600の弱点(ピーキーさ・整備性)を解消した後継モデル。
  • 前期はチェーンドライブ、後期はドライブシャフト式で実用性向上。
  • 791cc・70PSでトルクが厚く、街乗りもツーリングも快適。
  • 外装・内装の質感向上で“国際水準の小型スポーツ”へ。


S800って、まさに「ホンダが四輪スポーツを完成させた瞬間」なんですよね。

まだ小さいのに、大人のスポーツカーの風格がある。

今見ても惚れ惚れします!

S600とS800の主要スペック比較と、どこがどう変わったのか

表:主要スペック早見比較(公称値ベース)

項目S600S800(前期)S800(後期)
型式AS285AS800AS800
生産期間1964〜1966年頃1966〜1967年1968〜1970年
エンジン型式AS型(606cc)AS800E(791cc)同左
最高出力57PS / 8,500rpm70PS / 8,000rpm同左
最大トルク5.2kgm / 5,500rpm6.7kgm / 6,000rpm同左
レッドゾーン約9,500rpm約8,000rpm約8,000rpm
駆動方式FR+チェーンドライブFR+チェーンドライブFR+ドライブシャフト
サスペンション(後)トレーリング+チェーンハウジング同左リジッドアクスル
車両重量約715kg約720kg約750kg
最高速度約145km/h約165km/h約170km/h
燃料供給ツインキャブ(Keihin)強化型Keihinツインキャブ同左(セッティング変更)
ブレーキ4輪ドラム前ディスク/後ドラム同左
生産台数(参考)約13,000台前後約10,000台約8,000台
ボディタイプオープン/クーペオープン/クーペオープン/クーペ/GT

この表を見るだけでも、S600→S800の進化が「スペックの数字遊び」ではなく、構造・思想レベルの刷新だったことが分かります。

以下、それぞれのポイントを深掘りしていきましょう。


① エンジンの進化:レーシングからツーリングへ

S600のAS型エンジンは、当時のホンダF1エンジン(RA271系)に通じる高回転志向を極限まで突き詰めたものでした。

鋳鉄ブロック+アルミヘッド構成で、4連キャブ・ローラー式バルブトレインなど、**「600ccで9,000rpm超を常用できる」**という狂気的メカ。

S800のAS800Eではこの思想を引き継ぎつつ、

  • 行程拡大によるトルク増強(57mm→66mm)
  • 燃焼効率向上のための圧縮比最適化(約9.5→9.0)
  • 吸排気流速の安定化(キャブ径拡大・吸気マニホールド長延長)
    が行われています。

結果、S800は「回せば鋭いが、回さなくても速い」エンジンへと成熟。

7,000rpm以下でも粘りがあり、日常走行からツーリングまでカバーできる余裕が生まれました。

S600=“響くエンジン”/S800=“走るエンジン”
この対比はまさに、ホンダが“魅せる機械”から“使える機械”へと進化した証です。


② 駆動系の変遷:理想と現実の狭間

ホンダが四輪初期にチェーンドライブを採用したのは、「独立懸架で軽くて速いリアを作るため」でした。

理論的には非常に優れていましたが、現実には潤滑・防塵・整備の難しさが顕在化。

オーナーによる再現レポートでは、

「新品チェーンでも2,000kmごとにテンション調整が必要」
「高回転時に共振が出やすく、耐久性に不安」
といった声も残されています。

S800後期でドライブシャフトに切り替えたのは、理想よりも“維持できる現実”を優先した結果です。

この切り替えによって、走行フィールは少しマイルドになったものの、整備性と信頼性が飛躍的に向上しました。

この決断が、のちのホンダ量産FR車開発(1300、Z、さらにはビート)へと続く道を作ります。


③ サスペンションと操縦安定性の違い

S600のリアサスは、チェーンドライブハウジングをトレーリングアームの一部として機能させる独創構造でした。

理論的には軽く、応答性が高く、独立懸架的な動きができましたが、微小なガタやチェーン張力変化がステアフィールに影響するという問題もありました。

S800後期のリジッドアクスルは、確かに重量は増えたものの、安定性と再現性が向上。

とくにコーナー進入時のリア挙動が穏やかになり、“安心して攻められる旧車”になったと言われます。

結果的にS800は、ヨーロッパのクラシックラリーやヒルクライムでも人気が高く、「リジッドの方が速い」と評価する海外ドライバーも少なくありません。


④ 内外装・質感の違い:スポーツからグランドツアラーへ

S600の内装は、完全に「軽量スポーツ」の設計思想。

メーターパネルは金属むき出し、スイッチも工業的で、簡素ながら精密機械のような雰囲気を持っていました。

一方S800では、

  • ウッド調パネル採用
  • ステアリング径をやや拡大(操舵力軽減)
  • シートクッションの厚みアップ
    など、快適性と高級感が意識されています。
    これはホンダが「欧州市場で通用する“小さなGT”」を目指していた証拠。
    内装の進化は単なる装飾ではなく、ブランドの成熟を示しています。

外装でも細かな差が存在し、S800では前後バンパーのクローム形状が厚くなり、ヘッドライトリムも立体的に変更。

特にGT仕様ではファストバック風のデザインが採用され、風洞的にも洗練されました。


総評:思想の違いが個性を作る

  • S600:軽量・高回転・鋭敏。まさに「動く精密機械」。
  • S800:成熟・滑らか・公道での快楽。いわば「走れる工業芸術品」。

どちらも小型スポーツとして極めて高水準ですが、目指す方向はまったく異なります。

S600が“ホンダの理想”、S800が“ホンダの現実”を象徴していると言っても過言ではありません。


要点まとめ

  • S600→S800の進化は「排気量拡大+駆動系刷新+快適性強化」という総合的改良。
  • エンジンは回転志向からトルク志向へ、足回りは理想主義から現実主義へ。
  • 内装の質感向上は欧州GT市場を明確に意識。
  • 結果として、S600=感性の車/S800=完成の車、という個性が形成された。


この2台の違いを追っていくと、「ホンダってどこまで本気だったんだ」と唸ります。

数字以上に思想が違う。

どちらも“ホンダの青春”が詰まった車なんですよね。

エンジンの違い:AS型とAS800型は同じに見えてなぜここまで別物なのか

見た目はほぼ同じ、しかし設計思想が違う

S600とS800のエンジンは、どちらも直列4気筒・DOHC・ツインキャブ仕様

外観上も配置は酷似しており、一見すると「排気量アップしただけ」と思われがちですが、実際には設計思想レベルで異なるエンジンです。

S600のAS型は、ホンダが二輪レーシング技術をそのまま四輪に移植した“半ば実験的な”高回転ユニット。

一方S800のAS800Eは、S600で得た経験をもとに、公道・量産に耐える実用エンジンとして再設計されています。

両者の違いは、「音・フィール・トルクの出方・メンテナンス要求」のすべてに表れています。


設計面の相違:寸法・吸排気・燃焼効率

項目S600 AS型S800 AS800E型
排気量606cc791cc
ボア×ストローク65mm × 45mm(超ショートストローク)67mm × 70mm(ロングストローク寄り)
圧縮比約9.5:1約9.0:1
最大出力57PS / 8,500rpm70PS / 8,000rpm
最大トルク5.2kgm / 5,500rpm6.7kgm / 6,000rpm
キャブレター京浜ツインキャブ(φ30)強化型京浜ツインキャブ(φ32)
バルブ駆動ダブルオーバーヘッドカム(チェーンドライブ)同左(改良型テンショナー)
冷却方式水冷同左(冷却効率改善)

この比較から見えてくる最大の違いは、ストローク比

S600は“ショートストローク=高回転型”に振り切った設計で、ピストン速度を犠牲にしてでも回転数で馬力を稼ぐ思想でした。

一方S800ではボアアップに加え、ストロークを伸ばす方向で設計変更。これにより、低中速トルクと燃焼安定性を向上させています。

つまり、S600が「回してナンボ」なのに対し、S800は「踏めば進む」感覚。

数字ではたった200ccの差ですが、乗り味はまるで別世界です。


エンジンフィールの違い:聴覚と体感の進化

両者を比べたとき、最も印象的なのは音質とレスポンス

  • S600:アイドリングから高回転まで常に“金属音的”。7,000rpmを超えると吸気音と機械音が融合して高音のハーモニーになる。
  • S800:中回転域では低く太い音に変化。6,000rpm以降で一気に抜けの良い金属音に変わる。

オーナーの間では「S600は鳴く」「S800は歌う」と言われることも。

これは、燃焼波形と排気管長の調律の違いに由来します。

S800ではエキマニを等長化して排気干渉を抑え、より“自然に伸びる”音を狙った設計。

結果、S600がレーシーで神経質な高音型、S800が厚みあるトルクサウンドを持つ“楽器的”なエンジンとなりました。


トルクカーブの違い:数字に現れない“扱いやすさ”

当時の試験データを見ると、S600は4,000rpmを下回るとトルクが急激に落ち込み、5,500rpmを超えてから本格的に加速が始まります。

そのため、市街地では常にエンジンを回し続けないと失速気味になり、クラッチ操作もシビア。

対してS800は、3,000rpm付近からすでに力強さが出て、6,000rpmで最大トルク。
1速・2速のギア比も見直されており、ストップ&ゴーがスムーズに。

この違いが、当時のホンダが目指した“公道スポーツ”への変化を物語っています。

「S600がF1エンジンを縮小したような車なら、S800は“F1の遺伝子を公道に馴染ませた”車。」

この一文に尽きます。


構造的改良点:信頼性と整備性のバランス

S600時代のAS型は、回転数と引き換えに耐久性・メンテ性が犠牲になっていました。

オイル消費が多く、オーバーホールも頻繁、タイミングチェーンのテンション調整もデリケート。

S800では以下のような改良が施されます。

  • テンショナー機構の強化:自動式に近い構造で、チェーン鳴きを防止。
  • クランクシャフト強度向上:高張力鋼採用により高回転耐久を確保。
  • 潤滑経路見直し:オイルポンプ容量増加で油圧安定性向上。
  • ウォーターポンプ容量アップ:高回転時の冷却性能を改善。

この結果、S800は“壊れにくいホンダスポーツ”として信頼を得るようになります。

レストア現場でも「S600より手がかからない」と評され、今も実動個体が多く残るのはこの信頼性の賜物です。


実走比較:レスポンスの鋭さ vs. トルクの厚み

もしS600とS800を同じ峠道で走らせたら、キャラクターはまるで違います。

  • S600は、2速で引っ張って3速に繋いだ瞬間の“金属の旋律”が快感。
  • S800は、シフトアップしてもトルクで押し出す余裕があり、全域がスムーズ。

つまり、S600は**“操る喜び”、S800は“走る快楽”**。
どちらが優れているというより、ドライバーの性格次第で評価が分かれます。


維持とオーバーホールの現実

S600のエンジンは繊細な構造ゆえ、専門知識がないとオーバーホールは難易度が高く、ホンダ系旧車ショップでの整備費は最低でも30万円〜60万円が相場。

一方、S800は部品流通が比較的良好で、OH費用20〜40万円程度で済むケースもあります。

また、AS800Eではピストンリングやベアリングなど一部が他車種と共通化されており、現代の再生部品供給にもつながっています。

この“維持できる設計”が、S800が今も公道で生き残る理由のひとつです。


要点まとめ

  • S600とS800のエンジンは外観こそ似ているが、内部構造と思想は別物。
  • S600は超ショートストロークで高回転型、S800はロングストローク化でトルク重視。
  • 音質も異なり、S600は金属的高音、S800は厚みある低音。
  • 信頼性・整備性はS800が圧倒的に向上。
  • S600は“刺激”、S800は“調和”。それぞれがホンダの哲学を体現している。


S600のエンジンは狂気の産物、S800は理性の結晶。

どっちもホンダらしいけど、僕はあの金属の“キーン”という音が忘れられません。

まさに人の心を回すエンジンです!

駆動方式と足回り:チェーンドライブとドライブシャフトで何が変わる?

“四輪バイク”という異端の発想 ― S600/S800前期のチェーンドライブ構造

S600、そしてS800前期型に採用されたチェーンドライブ方式は、現代の自動車技術の文脈で見ても異常なほどユニークな構造です。

一般的なFR車は、エンジンからミッション、プロペラシャフト、デファレンシャルギア、ドライブシャフトを経て後輪を駆動します。

しかしS600/S800前期は、**プロペラシャフト+デフの代わりに「2本のチェーンと独立ハウジング」**を採用。

構造を簡単に説明すると、

  • トランスミッション後端に中間ギアボックスを設置
  • そこから左右にチェーンを伸ばし、それぞれの後輪を独立駆動
  • チェーンは密閉ケース(オイルバス式)内で潤滑され、テンション調整機構付き

この仕組みによって、左右の駆動が独立し、事実上の**“独立懸架+軽量リアエンド”**を実現。

つまり、ホンダは当時すでに「バネ下重量を減らし、応答性を上げる」というレーシング的思想を市販車で具現化していたのです。

この構造は、二輪メーカーとしてのホンダだからこそ可能だったアプローチ。

実際、当時の欧州ジャーナリストはS600を“Four-wheeled motorcycle(四輪バイク)”と呼びました。


チェーンドライブの走行フィール:生々しく、繊細

チェーンドライブ式のS600/S800前期を実際に走らせたオーナーは、ほぼ共通してこう語ります。

「後輪が“引っ張られる”ような独特のフィーリングがある」
「加速時に一瞬のラグがあり、その後グッと押し出される感覚」

この挙動は、チェーンの伸縮・テンション変化がそのままドライバーに伝わるため。

一般的なデファレンシャルギア式FR車のような“穏やかさ”がなく、常にメカの存在を感じる走りです。

コーナリング中もリアの接地感が非常に敏感で、アクセル操作一つで荷重が大きく変化するため、ドライバーの腕が試されます。

しかし、慣れるとこの「繋がってる感覚」がたまらない──。

S600が“機械と対話する車”と評される理由は、まさにこの駆動系にあります。


ドライブシャフト化の背景 ― 技術の“成熟”と“諦め”の狭間

1968年のS800後期型では、ついにこのチェーンドライブが廃止され、一般的なドライブシャフト+リジッドアクスル式に変更されました。

理由は単純で、現実的に維持が難しすぎたからです。

チェーンテンションは走行中に微妙に変化し、潤滑不足や張り過ぎによる破断リスクもありました。

特に長距離走行では熱膨張により調整が狂いやすく、オイル漏れやチェーン鳴きが頻発。

また、チェーンハウジングの整備には専用治具と経験が必要で、一般整備工場ではほとんど対応不可能でした。

ホンダはこの現実を受け入れ、ドライブシャフト化に踏み切ります。
この変更により、次の3点が大きく改善されました。

  1. 整備性が大幅向上(通常のFR構造に)
  2. 長距離・高速走行時の安定性向上
  3. 駆動効率の安定化とノイズ低減

ただし、この変更により「軽快さ」「独特の生々しさ」は薄れます。

つまり、S600/S800前期=理想主義の終着点、S800後期=実用主義の出発点

ホンダが技術者の理想から量産現実へと歩みを進めた象徴的な転換でした。


足回り構造の違い:独立懸架からリジッドアクスルへ

S600とS800前期のリアサスは、トレーリングアームとチェーンケースを一体化した独立懸架構造。

これは実質的に「ダブルリンク+チェーンテンション補助機構」であり、当時の軽量FRとしては異常なほど高剛性かつ複雑な仕組みでした。

後期S800では、リジッドアクスル化により構造がシンプルになり、整備性と耐久性が向上。

一見後退のようにも見えますが、実際には車重の増加を抑えつつ剛性を高めた堅実な進化でした。

操縦感覚で言えば、

  • S600/S800前期:軽快でリニア、だがピーキー。ドライバーが車に“合わせる”必要がある。
  • S800後期:挙動が安定し、多少荒っぽく扱っても破綻しない。ドライバーを“受け止める”。

ホンダが「速さ」よりも「楽しさ」「安心感」に舵を切ったのがこの時期です。


メンテナンス性の比較:バイク的か、自動車的か

項目チェーンドライブ式(S600/S800前期)ドライブシャフト式(S800後期)
チェーンテンション調整手動、2,000〜3,000kmごと不要
潤滑管理オイルバス方式、定期交換ミッションオイルと一体管理
振動・ノイズ高いが「味」として好まれる極めて静かで滑らか
整備難易度高い(専用工具と経験が必須)低い(一般FRと同等)
レストアコスト高額(部品入手困難)比較的安価(流通安定)

結果として、S600/S800前期を維持できる人は“愛と根気の人”

S800後期は、一般ユーザーでも現実的に維持できるスポーツカーへと進化しました。


歴史的意義 ― チェーンドライブはホンダの魂だった

チェーンドライブを捨てたことで、ホンダは確かに実用化への一歩を踏み出しました。

しかし、この方式は“技術者の夢”でもあり、後年のホンダ開発陣も「いつかまた、こういう変態的メカを作りたい」と語っています。

つまり、S600〜S800前期はホンダの理想主義が最も輝いた瞬間

そして、S800後期で実用主義に転じたことは、“理想と現実の調和”を象徴しています。

この2つを体験すると、ホンダという会社が“なぜエンジニアの会社”と呼ばれるのか、その理由がよくわかります。


要点まとめ

  • チェーンドライブは、軽量・応答性・独立懸架を実現したホンダ的発想の塊。
  • ただし整備・耐久・振動面で実用性が低く、S800後期でドライブシャフト化。
  • 駆動フィールは前者が生々しく後者が安定的。
  • この変更は、ホンダが理想主義から現実主義へと転換した象徴的な出来事。

まとめ:あなたが選ぶべきは“官能機械のS600”か、“走れる工業芸術のS800”か

機械としての純度を求めるなら、S600

S600は、ホンダの理想主義がもっとも輝いていた瞬間の象徴。

600ccの小排気量で9,500rpmまで吹け上がる高回転ユニット、チェーンドライブによる鋭敏なレスポンス――そのどれもが「速さ」より「技術美」を追求した結果でした。

整備は大変、燃調もシビア。
けれど、その手間さえ“味”になる。
走るたびに「自分が機械の一部になる」ような感覚が味わえるのがS600です。

この車を所有することは、“調律する喜び”そのもの。
手のかかる楽器を愛でるように、エンジン音やチェーンの唸りを楽しめる人にこそふさわしい一台でしょう。

S600は、機械と人が一体になるための儀式を味わう車。


走る芸術としての完成を求めるなら、S800

一方のS800は、S600で得た技術を現実に落とし込んだ“完成形”。
トルクの厚み、扱いやすさ、信頼性、そしてドライブシャフト化による安定感――

どれを取っても“日常と共存できるスポーツカー”です。

とくに後期型では、街乗りから高速まで余裕をもって走れる万能さを実現。
同時に、インテリアの上質感やボディラインの美しさも高まり、「小さなグランドツアラー」としての完成度を見せています。

S800は、理性と情熱のバランスを極めた“走れる工業芸術”。


維持・レストアの観点から見た現実

項目S600S800(後期)
整備難易度高い(専門店必須)中程度(汎用パーツ流用可)
部品供給廃番多い/リプロ一部あり流通比較的安定/互換あり
燃費約10〜13km/L約13〜16km/L
エンジンOH費用30〜60万円20〜40万円
乗り味神経質・鋭い滑らか・力強い

現実的に“動態保存”を考えるならS800、
“メカニズムそのものを味わう”ならS600。

それぞれの車に、明確な個性と意味があります。


哲学的な違い:技術の挑戦か、人との調和か

S600は、まるで若きエンジニアたちの夢をそのまま形にした車。

S800は、その夢を“人の生活”に寄り添わせた車。

ホンダの創業精神「人のために、技術のために」を体現しているのは、まさにこの2台の関係です。

両車を比べると、技術の進化だけでなく“ホンダという企業の人格”まで見えてきます。

S600=挑戦と純粋さ。
S800=成熟と調和。

どちらが優れているという話ではなく、どちらも“ホンダらしさ”の結晶なのです。

S600の金属的な咆哮を聞くと、まるでエンジンが生きているように感じます。

一方でS800に乗ると、「ああ、これがホンダの進化なんだ」と静かに感動します。


正直、僕自身どちらが好きか決められません。
でも――もし一台だけガレージに置けるなら、S600を選びたい。

なぜなら、“機械を愛でる喜び”を最も教えてくれる車だから!(←カッコつけすぎですね(笑))

-HONDA